ケイタのしゃべり場

ケイタのしゃべり場

言いたいことを書き連ねるブログ。

『憎しみが憎しみを呼ぶ』 検証してみた ~桃太郎編 第五夜~

お待たせしました。第四夜です。

前回までの内容はこちら

『憎しみが憎しみを呼ぶ』 検証してみた ~桃太郎編 第一夜~

『憎しみが憎しみを呼ぶ』 検証してみた ~桃太郎編 第二夜~

『憎しみが憎しみを呼ぶ』 検証してみた ~桃太郎編 第三夜~

『憎しみが憎しみを呼ぶ』 検証してみた ~桃太郎編 第四夜~

 

 

動きを封じられた以上、今は話を聞くしかない。

そして、まとまりつつあるかたちをより確かなものにするためにも・・・・・・。

「俺が鬼ヶ島に行ったのは財宝が目的じゃない。

鬼を皆殺しにするためだ」

「なぜ、なぜそんなことを!?」

ボクは桃太郎をにらみつけた。

その視線をまっすぐに受け止めながら、桃太郎が続ける。

「俺は鬼が嫌いだ。

鬼が悪かった。

だから殺した。

きみにもわかるはずだ・・・・・・」

いったん言葉を切る桃太郎。

その顔に微笑みが浮かんでいるように見えた。

「?」

「きみも同じく憎んだはずだろう?

鬼ヶ島の長・・・・・・親父のことを」

ッッッッッッッッッッッッッ!!!!

「さっき斬りかかってきた太刀筋ですぐにわかった。

あれは親父に仕込まれた技に間違いない。

・・・・・・かなり鍛えられたようだな」

「ば、馬鹿なことを言うな!」

言葉で否定しながらボクは桃太郎の言葉をすでに信じていたのかもしれない。

雉の住処で見たあの絵は

・・・・・・ボクと父さん、母さん・・・・・・

それに桃太郎だったのか!?

・・・・・・頭の中に猿が最期に言い残した“あの言葉”が蘇ってきた。

――「桃は、ひとつだけじゃない。ふたつあったんだよ」--

そうか、そういうことだったのか!

大きな桃が、目の前にいる桃太郎!

そして・・・・・・もうひとつの小さな桃は・・・・・・

まだ赤ん坊だったこのボク・・・・・・!!

鉢巻に描かれたふたつの桃は 鬼の兄弟 を表していたのか!!

「俺は、親父のしごきに耐えきれなかった・・・・・・」

独り言のように静かな口調だった。

「毎日辛くて辛くて、とにかく親父が憎らしかった。

だから俺は島を出ていったんだ」

同じだ。ボクと同じだ・・・・・・。

桃太郎襲ってきた頃ボクも同じことを考えていた。

憎らしい親父のもとを一日も早く逃げ出したいと・・・・・・・。

「島を出た俺はひたすら修行に励んだ。

いつか親父に恨みを晴らすために。

その結果が・・・・・・」

「鬼ヶ島の襲撃?」

桃太郎が頷いた。

「親父を殺す直前に俺は親父と最後の会話をかわした

きみも見ていたはずだな」

あの日の光景が一瞬、脳裏をよぎっていった。

「親父はこう言ったよ。

あのひどい仕打ちは俺への愛情だったと。

鬼と人間の間に生まれた文字通りの鬼っ子がどんな境遇にあっても

ひとりで生き抜いていけるようにそのために厳しく鍛えたんだとな

ボクは親父に受けた仕打ちを思い出した。

「俺には言い訳にしか聞こえなかった。

命乞いのために適当なことをいってやがるってね。」

それはそうだろう。

ボクだってきっと同じように思ったはずだ。

「だから俺はためらうことなく・・・・・・親父を斬り殺したんだ」

ボクは言葉を発することができず桃太郎の顔をただ見つめていた。

すると・・・・・・。

「!?」

桃太郎の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。

桃太郎は続ける

「ところがだ!

今の俺にはわかるんだよ!

親人の気持ちが!

俺への想いが!」

それまでとは打って変わって桃太郎は感情をほとばしらせるように大声で叫んだ。

「知っての通り今じゃあ俺にも息子がいる。

あいつも鬼と人との間に生まれた子だ。

俺や君と同じようにな!

この先どんな苦しみが待っているかわからない。

――そう思うと、親父の気持ちが理解できちまうんだよ!」

かためられていた胸が自由になった。

ボクから手を離し、その場に泣き崩れる桃太郎。

それを眺めながらボクはただただ混乱するばかりだった。

殺すべき相手が

実の兄だった・・・・・・。

その兄もまた自分と同じように父さんを憎んでいた・・・・・・。

けれども今では父さんの気持ちがわかるという・・・・・・・。

まとまらない思考が次から次へと湧いてきて頭が破裂しそうだった

このごちゃまぜの混乱を終わらせるには考えることをやめるほかない。

そのためには・・・・・・

決意したことをやり遂げる・・・・・・!

ボクの口から言葉にならない声が溢れ出したかと思うと腕が勝手に動いていた。

振りぬいた金棒を通じて鈍い感触が掌に伝わってきた。

・・・・・・。

ボクの足元にあったのは兄の、桃太郎の、首と胴体・・・・・・。

転がった首がボクのほうを見ている。

その口から最後の息が漏れるように微かな声を聞こえた。

「おれの・・・・・・むすこに・・・・・・きを――」

言葉が途切れ血まみれの首から生気が消えたとき桃太郎の息子が駆け寄ってきた。

「お父さん!!」

父親の死体にすがりつき泣きじゃくる子供の姿を見ながらボクは少しずつ落ち着きを取り戻していた。

確かにボクはこの手で目的を果たした。

しかし、この虚しさはなんなんだ?

達成感などこれっぽっちもない。

他人の命を奪うことを人生の支えとしたこれがその報いだとでもいうのか?

桃太郎の息子。

――ボクは甥の姿を見ながら自分のとるべき道が見えてきた気がした。

そうだ、ボクはこのまま桃太郎の、兄のあとを追おう。

理由がなんだろうとどんな事情があろうとこの子から父親を奪ってしまったのだ。

その代償として払えるものがあるとすれば・・・・・・

それはボクの命しかない。

そう決心したとき――

ボクを見あげる視線を感じた。

「?」

兄の死体の傍らで甥がボクの顔を見つめている。

その瞳は先ほど見たときと同じように物言わぬ冷たい輝きを堪えていた。

ボクは金棒をいったん置いて甥の隣に腰を下ろした。

そして・・・・・・すべてを語って聞かせた。

ひとりの父親とふたりの兄弟の身に起こった悲しい物語の、すべてを。

ボクにとってそれはいわば死に際の懺悔だった。

誰かを憎んで生きるのは虚しく、寂しく、悲しいことだ。

ボクの人生がそうであったように。

この子にそんな人生を繰り返してほしくない。

そのためには、今、この場でボクが命を絶つしかないだろう。

語り終えたボクが改めて兄のあとを追う為、金棒を握りなおしたとき甥の小さな手がボクの手を掴んだ。

「死んじゃダメだよ」

「!?」

聞き違いではなかった。

泣き腫らした目をした幼い瞳が力強くボクに告げている。

甥の瞳の中にあった冷たい光がいつしか熱い炎に変わっていた。

その炎が凍てついたボクの心を温かく溶かしていく。

父を殺した相手に「生きろ」というこの子の言葉がボクの胸の奥に染みわたる。

この子はボクを許すというのか?

幼い子供の言葉を罪深いボクが生きていく理由にしてもいいのだろうか?

「ボクの為に、生きていてよ。

・・・・・・叔父さん」

気がつくとボクは涙をこぼしていた。

溢れ続ける涙のせいで目がよく見えない。

かすんだ視界の中でボクは甥っ子を抱きしめた。

ボクに生きる理由をくれた幼な子の身体を力いっぱい・・・・・・

「ありがとう」

・・・・・・

甥の言葉によってボクは新しい人生を歩みだした。

生き残った仲間を集めて鬼ヶ島を再興しボクがその長となっていた

運命の悪戯だろうか父や兄と同じく人間の妻をめとったボクはやはり2人と同様に男の子を授かった。

そして・・・・・・十年の月日が流れた。

続く