ケイタのしゃべり場

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『憎しみが憎しみを呼ぶ』 検証してみた ~桃太郎編 第三夜~

お待たせしました。第三夜です。

 

前回までの内容はこちら

『憎しみが憎しみを呼ぶ』 検証してみた ~桃太郎編 第一夜~

『憎しみが憎しみを呼ぶ』 検証してみた ~桃太郎編 第二夜~

 

 

 

強くなりたい・・・・・・

その思いだけがボクを突き動かす。

誰にも負けないくらい強くなってこの怒りをアイツにぶつけたい。

桃太郎に!

修行といっても鍛えてくれる師匠や競い合う仲間がいたわけじゃない。

島の仲間は殆ど死んだし残された鬼たちもちりぢりになってしまったから。

ボクにとってはこの島の大自然が師匠であり仲間だった。

野山を駆け――

谷を越え――

川を渡り――

木々を飛び――

・・・・・・・ボクは自分の肉体を、精神をひたすら苛めぬいた。

陽が昇り、そして沈むまで一心不乱に金棒を振るった。

空腹と疲れは、鬼ヶ島の桃が癒してくれる。

すべてを失くしたボクにとってその桃だけが仲間たちとの絆のように感じられたんだ。

厳しい鍛錬と瑞々しい桃の実がボクの心と身体を鍛えあげてくれた

島の長だった父さんよりも大きく、逞しく、強い鬼になるために・・・・・・。

なによりも辛く感じられた孤独にもすぐに慣れることができた。

ボクには目的があったから。

はりつめた精神は強固な鎧となってボクの精神を守ってくれていた

けれども、ひとつだけボクを悩ませ苦しめ続けたモノがある。

睡眠だ。

眠らなければ、生きていけない。

生きるためには絶対に必要なその眠りがボクを苦しめていたんだよ

そう、、、、

いくたびも繰り返し見る

“夢”

のせいで・・・・・・・。

夢の中のボクは幼い子供だ。

幼いボクはいつも泣いていた。

大きな身体の誰かに

殴られ

蹴られ

打ち据えられ

泣こうが喚こうが

決して許してくれない・・・・・・。

・・・・・・そんな夢さ。

誰に暴力を振るわれているのか?

なぜ、そんな理不尽な目にあっているのか?

何もwからないままボクは恐怖に泣き叫んでいた。

恐ろしさが頂点に達したとききまってボクは目を覚ます。

夢から覚めると、ボクは泣いていた。

わけもわからず、泣いていた・・・・・・。

修行に励み、桃を食いそして悪夢に苦しめられる日々・・・・・・

あの日から八年が経った頃その日々に区切りをつける決心をした。

鬼ヶ島を出よう。

そうさ、桃太郎とその三年の仲間たちへ復讐するために!

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

ボクは、海を越え、人里へ辿りついた。

ちょっと書き込みをするだけで桃太郎、そして犬、猿、雉の居所を知ることができた。

八年も経ったというのに桃太郎の“鬼退治”を知らない者はいなかった。

勝った者が正義で、負けた者が悪。

それが歴史というものなんだね。

でも、ボクだけは知っている。

桃太郎が英雄なんかじゃないということを!

ボクは、まず三人の仲間どもに狙いを定めた。

最初の標的は、雉だ。

奴の住処を探り当てるとボクは正面から勝負を挑んだ。

辛い修行の日々がボクに自信を与えてくれる。

寝込みを襲ったりしなくても雉ごときに負けるつもりはない。

雉も愚かではないのだろうボクの実力をすぐに見抜いたようだ。

とても勝てないと悟ったのか殆ど抵抗することもなくボクの金棒の露ちなった。

トドメに首を刎ねようとしたとき苦しげな息遣いの雉が語りかけてきた。

「俺の首をとったあと、うちの中に入ってみろ。そこにある絵を見てみるといい」

うちに入れ?絵を見ろ?

意味がわからなかったけどそんなことはどうでもよかった。

一刻も早く雉をぶち殺し次の標的のもとへ向かいたい。

金棒を振りおろしたボクは雉の首を一振りで落としてやった。

苦痛を感じる暇もなかったと思う。

その後、ボクは雉の住処に入ってみた。

奴の言った通り一枚の絵が飾ってある。

描かれていたのは・・・・・・

三人の鬼とひとりの人間の女・・・・・・。

鬼のひとりは鬼ヶ島の長ボクの父さんに間違いない。

残り二人の鬼は子供とそれに赤ちゃんだった。

鬼の子供はひどく悲しんでいるように見える。

なぜだろう?

その絵を見ていると胸の中がざわざわしてきた。

長居は無用だ。

ボクは雉の住処をあとにした。

次に向かったのは第二の仲間――猿のところだ。

ボクを目の前にしたとき猿も雉と同様に抵抗してこなかった。

なにを考えているんだ?

嫌な感じがふつふつと湧いてくる。

とっとと済ませてしまおうと金棒を構えたとき猿がボクに言ったんだ。

「ちょっと待て。これが真実だ」

真実?

なんの話だ?

戸惑うボクの前に猿が一本の鉢巻を差しだす。

ひどく汚い。

ところどころに残るどす黒い染みは・・・・・・血の跡だろうか。

鉢巻には大きな桃と小さない桃が染め抜かれていた。

大きな桃が小さな桃を守るかのように前面に描かれている。

ふたつの桃?

この絵のなにが“真実”だというのだろう?

鉢巻を見つめながら首を捻るボク。

そのとき、猿の声が聞こえた。

「桃は、ひとつだけじゃない。ふたつあったんだよ」

「え?なんだって?」

訊きかえそうとボクが顔を上げた時――

「!!」

猿が手にした短刀で自らの喉を突こうとしていた!

冗談じゃない自害なんてされてたまるか!

ボクは復讐しにきたんだ!

短刀が喉に刺さる寸前、ボクの金棒が猿の首を叩き斬っていた。

・・・・・・。

猿の言葉が少し気になったけど今はそれについて考える暇はない。

一刻も早く目的を果たさなければ・・・・・・!

猿を殺したボクは桃太郎の最後の仲間――そう、犬のもとへ向かった。

犬の住処に辿りついたときすでに陽は暮れかけていた。

薄暗がりの中、犬と向かいあうボク。

気味の悪いことに、犬もまた抵抗するそぶりを見せなかった。

金棒を顔に突きつけても恐怖の色を浮かべることなく悟ったように静かに笑っている。

「なぜ笑っている?」

ボクは思わず口に出していた。

犬が静かにこたえる。

「間違っているんだよ」

・・・・・・間違い?

なにが間違いなものか!

ボクは父さんや仲間を殺された!

桃太郎と三人の仲間たちの手で!

その復讐のためにボクはここに来た!

ふざけるな!

ボクはなにも間違ってなどいない!!

怒りに震えながら手にした金棒を下から上へ振り上げた。

嫌な手ごたえを残して犬の頭が飛んでいった。

返り血に染まった頬を拭うことも忘れボクは犬の言葉を何度も思い返す。

「間違っているんだよ」--

わからない、ボクにはわからない。

雉も、猿も、犬も、なにかを知っているんだろうか?

ボクの知らない“なにか”を・・・・・・?

三人の家来を倒し残る標的は桃太郎tだひとり。

陽は完全に落ちて空には細い月が浮かんでいた。

桃太郎を狙うのは明日にしてボクは犬の住処で一夜を明かすことにした。

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・ボクは夢を見ていた。

あの日の夢だ。

そう、父さんが桃太郎に殺されたあの日の光景の・・・・・・。

桃太郎の血濡れの刀が父さんに振り下ろされようとした、そのとき――

夢の中の光景がさっと切り替わる。

桃太郎はいなかった。

そこにいたのはボクだ。

幼い頃のボクだ。

バキッ!

ボカッ!

ドゴッ!

・・・・・・痛い!

夢の中のはずなのに、物凄く痛い!

そうだこれは・・・・・・何度も苦しめられてきたあの夢だ!

殴られ蹴られ半殺しの目にあわされる

いつもの悪夢だ!

けれどもこの夜の悪夢には続きがあった。

理不尽な暴力にさらされその恐怖に頭を抱える幼いボクの耳に聞き慣れた声が飛び込んできたのだ。

「こら、早く立ていッ!」

「お前みたいな奴は生きていけんぞ!」

父さん!?

それは紛れもなく父さんの罵声だった。

ボクを罵る声だった。

――「そうだ、思い出した・・・・・・!」

――

・・・・・・失われていた記憶のすべてが滝のように溢れ出てくる。

ボクは父さんに愛されたことがない。

続く